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名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)2696号 判決

一 原告が本件登録意匠の意匠権者であることおよび被告が昭和四四年一〇月から昭和五三年一〇月末までの間イ号物件ないしハ号物件を製造、販売したことは当事者間に争いがない。

二1 原告は本件登録意匠の範囲は具体的な実在たる物品に即し願書の記載と図面代用写真とに基き決定されるべきものであり、イ号物件ないしハ号物件は別紙2ないし4の各意匠写真のとおりの意匠を有するとみるべきである旨主張するので、まずこの点について検討する。

2 意匠法二四条は「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない」と規定しており、同条中の「願書の記載」とは願書中の「意匠に係る物品」「意匠に係る物品の説明」「意匠の説明」の項に記載されている事項と解するのが相当である。また意匠法施行規則二条様式5備考8によれば立体を表わす図面は正投象図法に従うべきこととされ、図面代用写真の場合も同様とされている(同規則三条二項様式第六備考4)。

ところで、原告は、図面代用写真を願書に添附して本件意匠登録出願をしたのであるから(右は当事者間に争いがない。)、右各規定からすれば、本件登録意匠の範囲は願書の「意匠に係る物品」の項の記載、「意匠の説明」の項の記載、「意匠に係る物品の説明」の項の記載および「添附図面代用写真に記載された意匠」に基いて定められるべきであり、しかも願書に添附された図面代用写真が正投象図法すなわち互いに直角に交わる六つの面に囲まれた空間の中に物品を置いて六つの面にそれぞれ垂直な方向から見える通りの図を外開きにしたものにより作成されているものとしてこれを定めるべきであつて(意匠登録出願にあたり願書に添付された図面もしくは図面代用写真が正投象図法によらないものであるときは、当該意匠は具体的でないものとして意匠法三条一項本文に違反し、同法一七条の拒絶理由と解すべきであつて《特許庁審判基準三―一二一〇参照》、本件登録意匠の願書に添附された図面代用写真が意匠法上は正投象図法によつて作成されたものとされることは原告も自認するところである。)、右以外の事項を参酌して本件登録意匠の範囲を定めることができないことは明らかである。換言すれば、本件登録意匠の範囲は意匠出願時の意匠登録出願のもととなつた物品や、登録意匠の実施品によつて決定されるものではなく、しかも、一旦意匠出願が登録された以上、当該願書に添附した図面代用写真が真実は正投象図法により作成されていなかつたからそのことを前提にして本件登録意匠の範囲を定めるよう求めることは失当というべきである。

しかるに、原告は本件登録意匠の範囲は具体的な実在たる物品に即し願書の記載と図面代用写真とに基き決定されるべきである旨主張する。

右原告の主張する「具体的な実在たる物品に即」することの意味は必ずしも分明ではなく、従つてまた原告の右主張は全体的に必ずしも分明だとは言い難いが、仮にもし原告の右主張が前記説示に反し、前記記載の事項以外のものも本件登録意匠の範囲を確定する場合に参酌してもよいとするもの、あるいは右事項以外のものに基づいて本件登録意匠を定めるものとすれば、原告の右主張は原告の独自の見解に基づくものであつて失当というべきである。

もつとも、意匠は「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて視覚を通じて美感をおこさせるもの」(意匠法二条一項)であるから意匠は「物品」と不可分の関係にあり、これを離れては考えられない。それゆえ、「物品」に化体した意匠が登録意匠であると考えられなくもない。

しかしながら、右規定は単なるモチーフだけでは意匠権の対象とならず、「物品」に化体して初めて意匠法上の意匠たりうることを定めたにすぎないのであつて、登録意匠の範囲を具体的物品によつて定めることを定めたものではないから、右規定を根拠として原告の前記主張を肯認することはできない。

3 次に、前記のとおり願書の記載と図面代用写真に基き決定される本件登録意匠の範囲とイ号物件ないしハ号物件との対比方法であるが、イ号物件であることに争いのない検甲第二号証、検乙第一号証、ロ号物件であることに争いのない検甲第三号証、検乙第二号証およびハ号物件であることに争いのない検甲第四号証、検乙第三号証によれば、イ号物件ないしハ号物件が布製品であつてその形状が固定したものでないことは明らかである。

従つて、本件登録意匠と対比する観点からイ号物件ないしハ号物件がいかなる意匠を有するかを確定するためには、本件登録意匠の願書に添附した図面代用写真中の特定の写真例えば正面図の写真の形状とできるだけ近似した形状にイ号物件ないしハ号物件を置き、かかる状態をもつてイ号物件ないしハ号物件を固定したまま、それを正投象図法でいう六つの面に囲まれた空間の中に置き、六つの面にそれぞれ垂直な方向から見える通りの図を外開きにしてイ号物件ないしハ号物件の意匠を特定すべきであり、しかる後に本件登録意匠中の図面代用写真の各図と右方法によつて特定したイ号物件ないしハ号物件の各図をそれぞれ対応させて、本件登録意匠とイ号物件ないしハ号物件の意匠を対比することが適当である。

原告は本件登録意匠とイ号物件ないしハ号物件とを対比するにあたつては、本件登録意匠の願書に添附された図面代用写真各葉と同一の撮影方法でイ号物件ないしハ号物件を撮影した写真によつて対比すべきである旨主張する。

右原告の主張が、本件登録意匠の願書に添附された図面代用写真は正投象図法によつて撮影されたものでないことを前提とするものであれば、既にその前提において失当であることは前説示により明らかであるし、正投象図法によつて撮影されたものであることを前提とするのであれば、右原告主張の方法は、前記方法と同一の方法であることに帰着するというべきである。

4 そこで、イ号物件ないしハ号物件の意匠を考えるに、成立について争いのない甲第三号証の一ないし四、第六号証によれば、本件登録意匠の願書に添附された図面代用写真は、当該対象物品を自立状態を呈するようにして互いに直角に交る六つの面に囲まれた空間の中に置き、六つの面にそれぞれ垂直な方向からこれを撮影したものであると認めるのが相当である。

もつとも、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件登録意匠の図面代用写真を撮影するに際し、対象物件を床の上に扁平に置き、底板を水平にして正面もしくは背面写真をとつたこと、また同左もしくは右側面写真は左もしくは右側面が扁平になるように対象物件を置き直して撮影したことが認められるが、前記説示のとおり、本件登録意匠の範囲を確定するためには、原告がいかなる方法をもつて願書添附の図面代用写真を撮影したかは考慮すべきではないから、右事実は前記認定を左右するものではない。

従つて、イ号物件ないしハ号物件の意匠を特定するにあたつても前記認定と同一方法によるべきところ、検証の結果および弁論の全趣旨によれば、イ号物件ないしハ号物件を右方法によつて撮影するとおおむね別紙5ないし7(別紙5はイ号物件、別紙6はロ号物件、別紙7はハ号物件である。)のとおりの写真が得られることが認められ、右認定に反する証拠はない。

従つて、以下本件登録意匠と別紙5ないし7の各意匠写真とを対比することとする。

三1 前掲甲第三号の一ないし四、第六号証によれば、本件登録意匠に係る物品(保温着)の基本的構成は次のとおりであると認められ、イ号物件ないしハ号物件がいずれも保温着であることは当事者間に争いがなく、その基本的構成は別紙5ないし7によれば本件登録意匠に係る物品の基本的構成と同一である。すなわち、

(一) 底面を四角形台板形状とすること。

(二) 上縁を穿口部とすること。

(三) 上縁から中央部にかけての周側を外側に膨出させた袋状に形成すること。

(四) 正面部に上縁から深い切込を形成して、フアスナーを装置すること(但し、ハ号物件にはない。)。

(五) 正面上方部の左右にポケツトを設けること。

2 ところで、成立について争いのない乙第五、六号証によれば、本件意匠登録意匠出願時においては、本件登録意匠に係る物品が公知の物品であることが認められ(右認定に反する証拠はない。)、右乙第六号証によれば右認定の本件登録意匠およびイ号ないしハ号物件の基本的構成は、いずれの点においても公知のものであり、かつ、この種保温着の用途、機能に伴う必然的構成であると認められる。

そして、登録意匠の要部を判断するにあたつては、登録意匠に係る物品が当該意匠出願当時公知のものである場合にはその物品の用途、機能に伴う必然的構成は当該登録意匠の要部となるものではなく、それ以外の細部の構成に登録意匠の要部があると解するのが相当であるから、右認定の基本的構成はいずれも本件登録意匠およびイ号物件ないしハ号物件の意匠の要部というべきではない。

原告は、右認定の基本的構成に相当する部分を本件登録意匠およびイ号ないしハ号物件の意匠の各要部である旨主張するが、右主張は前説示に照らして失当である。

3 そこで、本件登録意匠の右基本的構成以外の点について考究すると、本件登録意匠は、

(一) 穿口部について、両側中央部に段差部を形成して前半部より後半部を顕著に高くしていること、

(二) 主体部について、穿口部から底面部にかけて外方に向つてゆるやかな膨らみがあり、その全体の輪郭が上下に両端の尖鋭部分を切除した紡錘形状をなしていることにその特徴を有すると認められるところ、これに対し、イ号物件ないしハ号物件においては

(一) 穿口部について前半部から後半部にかけて漸次傾斜状に高くしている(イ号、ロ号物件)が、穿口部を前半部、後半部ともほぼ水平にしていること、

(二) 主体部については上半の腰部に当る部位に外方への膨らみを設けているものの、その部位の下端から底面部にかけてほぼ垂直であること、

(三) 全体形状において、主体部の下方に底面部までを前方に折り曲げ斜面状ないしエジプト人型棺の促足首形を形成していることにその特徴を有することは、別紙5ないし7の写真によつて明らかであり、右各点における両者の相違は、両意匠の各特徴を構成し、看者の注意を惹く要部と認められ、かつ別異の印象を与えるに充分というべきである。

従つて、イ号物件ないしハ号物件の意匠と本件登録意匠とは全体的に観察して非類似であると解するのが相当である。

四 してみると、原告の本訴請求はその余を判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとする。

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